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『肉食の思想』

『肉食の思想 ヨーロッパ精神の再発見』鯖田豊之 中公新書・中公文庫

日本人の食の欧米化が進んで久しいが、
じつは、日本人の食は基本的な部分ではまったく〝欧米化〟していない、
という指摘から本書は始まる。

それは欧米の食が、メインを肉、乳製品とするのに対し
日本ではあくまで主食となるのは米や麺といった穀類である。
それがパンに置き換わったところで、日本人の高い穀類依存率は変わるはずがない。
日本人の食生活は一見西欧化したようだが、基本のパータンは変わっていないのである。

肉は米とは置き換わらないのである。永遠に、といっていいほど。

(このパラドックスは、16世紀あたりに日本にやってきたキリスト教宣教師が布教して、
信者が増えても〝キリスト教精神〟だけはまったく根づかなかったという悲劇にも似ている)

そもそも肉食と菜食が分かれたのは気候風土によるものが大きい。
日本よりはるかに北に位置するヨーロッパでは、
植物が生い茂ってジャングル化するようなことがほとんどない。
せいぜい地面を短い草が覆い尽くすぐらいで、
そこから人間が食べられる豊かな農作物はのぞめない。
そこでその草を家畜に食べさせることで、肉や乳を得る農法が発達した。

一方、日本をはじめ東南アジアでは、夏の湿度温度とも高い時期に
草はあっというまに逞しく育つ。
育ちきった草はもはや家畜の餌には適していないし、
そこで育った農作物を食べたほうが効率がいい。

こうして気候風土の事情から選択されていった食のあり方は、
その土地の人々の宗教から社会構成、価値観まで大きな影響を与えていく。

キリスト教はなぜ一夫一婦制か。
ヨーロッパの貴族はどうやって生まれたか。
なぜ、フランス革命が起きたか。
なぜ、ヨーロッパにおいて個人主義が発達したか。

これらの源流には「肉食」があることが、この本を読むと面白いほど見えてくる。

それは一言でいえば、家畜と分かちがたく生活するなかで、
ヨーロッパ人は人間精神を発見し、人間中心主義にたどりついたということだと思う。

シーシェパードのような極端な動物愛護団体が生まれる理由や
東南アジアで見かける欧米人はバックパッカーであろうと金持ち旅行者であろうと
西洋式の食事を変えない理由が、なるほどとわかってくる。


時代は変われど、人間の根本はそう簡単には変わらない。

アジアとヨーロッパの断絶は想像以上に深い。
by room2room | 2012-04-21 19:00 |


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